
2025年1月、埼玉県八潮市の県道において道路の陥没が発生し、トラック運転手の方が車両ごと落下した事故は記憶に新しいと思います。その後、懸命な救助活動が行われたものの流出する土砂や下水道に阻まれ、運転手の方が亡くなってしまうという悲しい事故となりました。
原因究明の委員会では、陥没の原因は硫化水素で腐食した下水道管という考えが出ているそうです。こちらの下水道管は1983年に敷設されたもので、事故当時すでに40年以上が経過していました。
このように、老朽化したインフラというのは日本全国にあり、大きな事故が起きればニュースになりますが、あまり話題にならない小規模な事故などは各地でしょっちゅう起きています。今回は、そんなインフラ施設の老朽化と、それがもたらす日本の将来について、建築士目線で話してみたいと思います。
【課題1】インフラ老朽化のピークがやってくる
前述した埼玉県八潮市の道路陥没のほか、2025年には11月に沖縄県で水道管破裂による広域断水が発生、また9人の死者を出した2012年の山梨県・笹子トンネル天井板崩落、2021年の和歌山市・水管橋崩落など、大きな話題となった事故は多いですが、これらはどれもインフラの老朽化が原因の一つと指摘されています。
インフラ施設の寿命は50年程度とされていますが、日本のインフラの多くは高度経済成長期ごろにつくられており、建設から50年を超えるものも増えてきています。
高度経済成長期は日本の人口も増加し、戦後復興期からどんどんモノをつくって生活を便利にしようと躍起になっていた時代。日本初の高速道路とされる名神高速道路も1965年に全線開通していますね。
道路だけでなく、トンネル、橋、水道管、下水道管、港湾施設など我々の生活を支えるインフラ施設ですが、この多くが高度経済成長期に一気につくられているのです。

国土交通省の資料によれば、道路橋は2030年までに、トンネル・河川管理施設・港湾施設は2040年までに半数以上が建設から50年以上になる予定で、加速度的に増えていきます。比較的更新作業を行っている上下水道施設でも、2040年には40%前後が50年を経過します。
徐々に徐々に、毎年均一に老朽化が進めばいいのですが、かつて同時期に整備したインフラ施設が一気に老朽化を迎えるということが大きな問題です。また、これらのインフラ施設は私たちの生活を大きく支えてくれる、なくてはならない存在であることも問題を複雑にしています。
【課題2】重い管理費と更新費

老朽化したインフラ施設はまだまだ使えるものも多いですが、維持管理のための費用は高くなりがちです。補修などの作業が必要になることも多く、管理するためには膨大な費用がかかります。
地方財政統計年報から国交省が作成した資料によれば、市町村の土木費は新設工事などもまだまだ多かった1993年度の11.5億円をピークに年々減少。2011年度に6兆円まで下がり、その後はほぼ横ばいの6.5兆円前後で毎年推移しています。

しかし、国交省所管のインフラを対象にした試算によると、不具合が生じてから対応する「事後保全」のみでは、2048年度に維持管理・更新費用が年間約12.3兆円も必要になるとされているのです。一方で、不具合が生じないよう事前に点検・補修を行う「予防保全」に取り組めば、2048年度まで毎年6兆円前後の費用で済むという試算もあります。
このように予防保全の考え方はとても大切なのですが、とはいえ、いつまでも予防保全を続けることはできず、どこかでまとまった更新費用が必要になります。ただ、少子高齢化で税収も厳しく、社会保障費などにお金がかかる中で、インフラ保全の費用を捻出するのは大変です。
これからのインフラ管理は、「予防保全」をうまく行いながら、毎年の支出を平準化しつつ更新していく、という非常に高度な舵取りが求められます。
【課題3】建設業従事者と技術系公務員の人員不足

昨今、建設現場でも外国人労働者が増え、少子高齢化による労働人口の減少をますます実感するようになりましたが、こうした人員不足は、建設業全般やインフラ施設を管理する技術部門の行政職員にも当てはまります。
国交省の資料によれば、市町村における土木部門の職員数は、2005年度から2023年度までの間に約14%減少しています。土木部門に限らず市町村全体の職員数も同様に減少してはいますが、こちらは近年増加傾向に転じており、2005年度と2023年度を比べると下げ幅は約8%にとどまっています。
インフラ維持のメイン人材である技術系公務員の減少は、インフラ施設の更新作業にダイレクトに影響します。限られた人材で優先順位をつけ、インフラ維持を行うことになりますが、前述したとおり、同時期につくられたインフラ施設の老朽化ピークが一気にやってくることを考えると、手に負えなくなってしまうことも予想されます。
また公務員だけでなく、実際に作業する建設業従事者についても人員不足が顕著ですので、インフラ施設の老朽化に待ったをかける更新作業は、予定どおりに進まない可能性が高いと言わざるを得ない状況なのです。
【解決策1】インフラDX
人材不足や財政難といったインフラ施設の維持管理における様々な課題を解決する手段として、DX化は有効な戦略です。
例えば、ドローンによる点検、道路や構造物の内部を見ることができる四次元透視技術、GIS(地理情報システム)を活用して過去の点検結果や異常の履歴を一元的に管理するシステムなどなど、様々な技術開発が進められ、すでに多くの現場で活用されています。
また国交省は、こうしたインフラ老朽化対策の一環として、2021年度に「インフラDX総合推進室」を立ち上げています。
【解決策2】国土強靭化計画
インフラ施設の老朽化や大規模災害への対策として、国は「国土強靭化計画」を策定、推進しています。
地震や大型化する台風など自然災害への対策がメインにはなりますが、インフラ施設の老朽化はこれら災害の被害を拡大させ、また復旧を遅らせることにもつながるため、インフラ施設の更新や機能強化なども盛り込まれています。
もちろん、前述のDX化、デジタル新技術の活用なども含まれます。
国土強靭化計画の具体的な施策としては、自治体庁舎の非常用通信設備の整備、船舶を活用した医療提供体制の整備、防災訓練の推進など防災に関する項目が多いですが、
- 上下水道施設の維持管理・更新
- 橋梁の修繕・耐震化
- リニア中央新幹線を含む鉄道交通ネットワークの強化
- 緊急輸送道路の無電柱化
- 現場でのロボットやドローン等の活用
- 堤防等の整備・強化
など、インフラ整備に関する施策も多く出てきます。
まとめ
インフラ施設は私たちの生活になくてはならないものですが、必ず老朽化していくものでもあります。
当たり前のように使えている道路や上下水道などですが、誰かが整備し、管理してくれているという認識をあらためて持つことが大切です。人々が少しでもそういった意識を持ち、インフラ施設を大切に使うだけでも、老朽化を遅らせることにつながるかもしれませんね。
